「日本やアジアの異常気象の一因がアフリカのサヘル地域の雨雲にあることを初めて解明 -- アフリカのサヘル地域で大雨が降れば、日本は猛暑に--」

Nakanishi. T. Tachibana, Y., and Y. Ando, Possible semi-circumglobal teleconnection across Eurasia driven by deep convection over the Sahel, Climate Dynamics, 59, https://doi.org/10.1007/s00382-021-05804-x , 2021


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概要が掲載されている三重大Rナビは(こちら

アフリカのサヘルサヘル地域とは,サハラ砂漠のすぐ南に位置する地帯です.ここは雨季と乾季が明瞭な地域です.雨期には大量の雨が降ります.この雨をもたらす雲が凝結時に相変化を伴い熱を出します.それが上空の大気の流れを変えて,ヨーロッパ上空の偏西風を蛇行させ,さらにその蛇行が北極の周りを周回する亜寒帯ジェット気流の蛇行にまで影響が及ぶという論文です.亜寒帯ジェット気流の蛇行は,日本の天候にも影響を及ぼしますので,遠いアフリカの降水が北極回りで日本の天候にまで影響がある.という部分がこの論文が初めて示したことになります.サヘルの雨期6-9月なので,日本の夏の天候に影響します.途中を飛ばせば,サヘルで雨が強まれば,日本は暑くなる.ということになります.2018年の夏は観測史上最高の猛暑でした.またこの年のサヘルの降水は活発でした.この論文では,2018年のことについても触れています.2018年の図も論文の補足資料に掲載されています.サヘルが2018年猛暑の一因だったかもしれません.2018年の猛暑はたくさんの原因が複合していると考えられますので,あくまで一因です.詳細については今後の課題です.なお,このような熱帯地方の雨が中緯度の天候に影響するという見方は,エルニーニョやラニーニャなどの熱帯太平洋上の雲活動の影響としてよく知られています.我々の論文では,陸上の雲活動の影響を調べたということでも新しい見方を提供できたと自負しています.サヘルでこれだけのインパクトがあるのですから,アマゾンなどの雨もきっと遠い地方に影響していると思います.それも今後の課題です.また,北極振動指数が正の時(亜寒帯ジェットが強い時)ほどサヘルの影響が亜寒帯ジェットの蛇行に強く影響することも示しました.ですので,この結果は熱帯大気と高緯度大気とのコラボレーションが重要であることも示唆します.なおこの研究は中西友恵さんの修士論文です.M2の途中に論文を投稿し,修士修了直後の5月上旬に受理されました.彼女はコロナの中でも粘り強くいい研究をしたと思います.うんちく話は(こちら(未完)

京都大学防災研究所主催の異常気象研究会(2020年12月)の発表要旨にこの研究の詳しい説明が書かれています.ファイルは(こちら
修士論文審査会で用いたpptファイル(抜粋)は(こちら
論文そのもののファイルは(こちら

当研究室でのサヘル地域の雨に関連する学術論文はこの研究で3本目です.下記二本が過去の論文

宗本君の論文(サヘルの雨が最近増加に転じた)
Munemoto, M. and Y. Tachibana, The recent trend of increasing precipitation in Sahel and the associated inter-hemispheric dipole of global SST, International Journal of Climatology, 32, 1346-1348, DOI: 10.1002/joc.2356, 2012

留学生のAlima Diawaraさんの論文(サヘルの雨が増加している理由はグローバルな海面水温にある)
Diawara A., Y. Tachibana, K. Oshima, H. Nishikawa, and Y. Ando,Synchrony of trend shifts in Sahel boreal summer rainfall and global oceanic evaporation, 1950–2012, Hydrology and Earth System Sciences, 20, 3789–3798, https://doi.org/10.5194/hess-20-3789-2016, 2016

(記載日:2021年7月1日)



論文の基となった学会発表予稿、論文の解説、論文内容を説明したppt等

自分や共著者の論文に関係する覚え書きのページ


これまで共同研究者や学生達と論文を書いてきましたが、論文内容のほとんどは、学会でも発表していますので、論文内容とほぼ同等のpptファイルが手元にあります(遺失したものも多数ありますが)。また、論文内容をかみくだいた解説文や学会予稿集として、論文以外の出版物もいろいろ書いています。それらを、時間があるときに順次置いておきたいと思います。(ゆっくりペースで更新します)。引用を明記していただければ、二次利用はokです。

主旨


多くの研究者のweb pageには、論文リストが載っているだけで、中身をざっと知れるようになっていません。また、英語で書かれている論文を読む早さは、日本語で書かれている文書よりも遅くなりますし、論文スタイルの英語を読む経験が少ない人にとっては斜め読みしにくいです.学生など英語論文に慣れていない人にとってもハードルが高いとおもいます。気象には詳しいけれど研究者ではない人や、高校の先生なども。もし日本語で書かれていれば、背伸び好きの中学校や高校の生徒、などに読んでいただけるのでは・・なお、日本語で書かれている文章は単なる英文の直訳ではありません。内容は必ずしも完全に一致するるわけではありません。その点はご理解ください。

パラパラっと、pptを眺めていただいて、どんな論文なのかをざっと概観していただくには時間の節約になり良いことだとおもいます。pptはアニメーションを用いたりポンチ絵を使って、短い発表時間に聞いてくださっている方達に内容のキモ部分を理解していただくような工夫をしていますが、じっくりと読んでいただくことを前提に書かれている論文の図にはそのような工夫があまりされていません。まずパラパラとpptをごらんいただいて、もし論文本体に興味を持たれた方は、論文そのものをお読みいただければ。。と思います。将来的には、動画を載せるということも考えています。

自分で観測して取得したデータを用いた論文では、観測の準備など、苦労話がたくさんありますが、論文そのもには書けません。そのような裏話も書き加えていきたいと思います。観測以外の論文でも論文執筆と改訂に至る苦労話や、その論文の発想に至った経緯や源なども書き加える予定です。それぞれの論文のレフェリーの方がお読みなったら、カチンとくるような内容も含むかもしれませんが、著者としての気持ちを素直に書いていきます。

低温のオホーツク海は、梅雨と夏の太平洋高気圧を強めている 西日本豪雨にも影響か?

Kawasaki, K., Tachibana, Y., T. Nakamura, and K. Yamazaki, Role of the cold Okhotsk Sea on the climate of the North Pacific subtropical high and Baiu precipitation, Journal of Climate, DOI: 10.1175/JCLI-D-20-0432.1, , 2020


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梅雨は東アジアの初夏に特徴的な現象で、時に令和2年7月豪雨や西日本豪雨(平成30年7月豪雨)のように甚大な災害を引き起こします。梅雨前線は低温のオホーツク海高気圧と暖かい太平洋高気圧の間にできる前線と説明されることが多いですが、オホーツク海の役割を明確に示した研究はありませんでした。この論文では、低温のオホーツク海が太平洋高気圧を強め、ひいては梅雨の降水量を増やすことを数値シミュレーションにより明らかにしました。さらに、オホーツク海高気圧が無くとも梅雨現象は起こることを示し、梅雨にとってオホーツク海は副次的な役割であると示しました。
この研究は,当研究室の学生であった川崎健太さんの卒論と修士論文の一部をまとめた論文です.川崎さんは,教授であるボクには全く忖度せず,歯に衣着せぬタイプの学生でした.彼の忠告は非常にありがたかったです.
子供向けの教科書や気象の解説書に梅雨前線は,太平洋高気圧を伴う暖湿の小笠原気団と,北の冷たいオホーツク海高気圧を伴う,オホーツク海気団の狭間で,南北の気団のせめぎ合いで存在すると図解などがなされています.梅雨前線に対する南からの様々な影響に関する研究は多数ありますが,オホーツク海気団の影響に関する研究は,教科書に書かれているにも拘わらずほとんどありません.この研究はそこにスポットライトを当てました.数値実験でオホーツク海を陸に変えてみました.陸に変えた数値実験と,海のまま(つまり今の気候)の両方の実験の差から,オホーツク海の存在意義を理解するというやりかたです.結果表題の通りです.オホーツク海があることで,梅雨の雨量は約10%増加します.
数値実験の結果,冷たいオホーツク海の存在が,太平洋高気圧を強めていることが示されました.これは北の寒気と南の暖気の気温差が大きくなることから,高低気圧活動が活発となり,それが太平洋上で吹く偏西風を強化することで,太平洋高気圧が強まります.強まった太平洋高気圧の西の縁を水蒸気が北に進むことで,梅雨を強化しています.
数値実験だけでなく,過去のオホーツク海の海面水温の高い年と低い年の大気循環の違いも調べましたが,同様のメカニズムが作用していることも示されました.ですので,オホーツク海の海面水温が平年よりも冷たいか暖かいかが,梅雨に影響があるということです. 論文中にちらっと触れましたが,2018年の梅雨期に発生した平成30年7月豪雨(通称,西日本豪雨)の年の6月から7月上旬にかけてのオホーツク海の海面水温はかなり低温でした.ですので,この豪雨にオホーツク海が寄与した可能性があります.
地球温暖化で世界の海面水温が上昇しています.オホーツク海は海氷に覆われる海域ですので,おそらく温暖化のスピードは周囲の海域よりも遅いでしょう,従ってオホーツク海と周囲の海との温度コントラストが大きくなり,近未来の梅雨も強くなる可能性があります. うんちく話は(こちら(未完)

川崎君はM1の時に日本気象学会(2016秋)で,この内容を発表しています.初期結果が出てから,学術論文として発表までかなり時間がたってしまいました.pptは(こちらです).

論文そのもののファイルは(こちら
(記載日:2021年1月15日)



「「32年ぶりの大寒波は温暖化の影響か?~北極海アラスカ沖に空いた海氷の巨大な穴が作る偏西風蛇行~~強い寒波と豪雪は今後も頻発する!? ~」

Tachibana, Y., K. K. Komatsu, V. A. Alexeev, L. Cai, and Y. Ando, Warm hole in Pacific Arctic sea ice cover forced mid-latitude Northern Hemisphere cooling during winter 2017-18, Scientific Reports, 9, 5567, DOI : 10.1038/s41598-019-41682-4 , 2019


2017-18冬(平成30年度冬)の北極振動指数は長期に亘り「負」の状態が続き,北極域の対流圏上層気温も史上最高となりました.また,日本は32年ぶりの記録的寒波年となり,北陸地方では記録的豪雪年となりました.その一因が北極ではアラスカ沖(チュクチ海)の北極海の海氷が観測史上最も少なかったことにあるという論文です.我々はアラスカ沖(チュクチ海)の海氷の少なさを暖穴(warm hole)と命名し,これが北極対流圏上層気温の異常高温をもたらすことで負の北極振動の状態が継続し,記録的寒波を日本にもたらしたことをデータ解析と海氷on/offの数値実験により示しました.この論文は当研究室の小松謙介さんの博士論文の一部,「シベリアからの「大気河川」'Siberian Atmospheric Rivers'が北極上空を熱する」からヒントを得ました.太平洋からベーリング海に流入するAtmospheric Riversが,海氷が無い場合には,より極域にまで侵入するであろう.という仮説がミソです.うんちく話は(こちら(未完)

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リリースペーパーの補足資料は、(こちら
日本気象学会,日本海洋学会,日本雪氷学会(2019秋)で,この内容を発表しました.海洋学会の予稿集は(こちらです.)大気・海洋・海氷の三者が相互作用したこととそれらの正のフィードバックが重要であるので,複数の専門分野にまたがる内容なので,3つの学会で発表する事にしました.

内容は朝日新聞のwebにも掲載されています(リンク切れの際はご容赦).

論文そのもののファイルは(こちら



「日本の異常気象が遠く南極に関係がある ―北極振動と南極振動が一緒に変動していることを発見―」

Tachibana, Y., Y. Inoue, K. K. Komatsu, T. Nakamura, M. Honda, K. Ogata, and K. Yamazaki, Interhemispheric synchronization between the AO and the AAO, Geophysical Research Letters, 45,13477-13484, DOI:10.1029/2018GL081002 , 2018

この論文の核心部は当研究室の学部学生の井上祐介さんの卒論です.これをベースに共著者とで修正を加え論文として仕上げました.うんちく話は(こちら(未完)

この研究はプレスリリースしました(リリースペーパーこちら)リリースペーパーの補足資料は、(こちら

日本気象学会,JPGU,IUGGで,この内容を発表しました.JPGUの発表で使ったpptは(こちらです..

この卒論をアイデアとして科研費を取得しました.
研究種目 挑戦的萌芽研究
研究題目:北極振動と南極振動の「メタ・テレコネクション」~両半球をつなぐ航路は何か~ 研究代表者 立花 義裕 研究期間 (年度) 2016 – 2018

論文そのもののファイルは(こちら



「シベリアからの「大気河川」'Siberian Atmospheric Rivers'が北極上空を熱する」

Komatsu K. K., V. A. Alexeev, I. A. Repina, and Y. Tachibana, Poleward upgliding Siberian atmospheric rivers over sea ice heat up Arctic upper air, Scientific Reports, 8, 2872, doi:10.1038/s41598-018-21159-6 , 2018


この論文は当研究室の小松謙介さんの博士論文の一部です.小松さんがロシアの砕氷船で北極に行き,ロシアの研究者と一緒に海氷の中と外で砕氷船からラジオゾンデ観測(上空の大気の気球観測)を行った観測データから見いだした研究です.北極温暖化加速の原因についての新説となるかもしれません.このような砕氷船からの海氷内外での連続気球観測は世界初だとおもいます.うんちく話は(こちら(未完)

この研究はプレスリリースしました(リリースペーパーこちら)リリースペーパーの補足資料は、(こちら
三重大Rナビにも掲載されています、(こちら
論文そのもののファイルは(こちら



「2010年猛暑の一因である「正」の北極振動は,前年の冬の「負」の北極振動の反転がもたらし,反転の原因は大西洋にあった」

Otomi, Y., Y. Tachibana, and T. Nakamura, A possible cause of the AO polarity reversal from winter to summer in 2010 and its relation to hemispheric extreme summer weather, Climate Dynamics, 40, 1939-1947, doi:10.1007/s00382-012-1386-0, 2013

この論文は大学院生の大富裕里子さんが筆頭著者で、彼女が修士2年の時に出版されました。彼女の卒論がベースです。2010年の猛暑と北極振動の関係についての論文です。うんちく話は(こちら
2018年の史上最強の猛暑年でも北極振動が冬から反転し,夏は北極振動は強いプラスとなりました.2017-18冬は北極振動はマイナスで,寒かったのですが,それが6月に急激に反転しました.2009ー2010も冬が北極振動がきわめて強いマイナスで,やはり6月に反転しました.これら二つの年の冬から夏への遷移は非常に似ています.
論文そのもののpdfファイルは(こちら
論文そのもののhtmlファイルは(こちら
この論文の内容+αを図解で一般向けに説明したpptxファイル7MBは、(こちら
2012年秋気象学会発表原稿pdfファイル(こちら
2010年春気象学会発表原稿pdfファイル(こちら)、と学会発表時のpptは(こちら)
気象研究ノート「2010年猛暑」の原稿draft pdfファイル(こちら)



干ばつが報道されるサヘルだが,サヘルのの雨は近年増えていて,それは全球海面水温の南北半球の反対称が遠因
Munemoto, M. and Y. Tachibana, The recent trend of increasing precipitation in Sahel and the associated inter-hemispheric dipole of global SST, International Journal of Climatology, 32, 1346-1358, doi:10.1002/joc.2356, 2012

この論文は大学院生の宗本くんが筆頭著者で、修士修了の2年後にacceptされました。彼の修士論文がベースです。水不足と砂漠化でよく報道されるアフリカのサハラ砂漠の南のサヘールの降水量が、実は最近増えていて、それが北半球と南半球の全球の海水温の南北コントラストと関係があるという論文です。うんちく話は(こちら
論文は、(こちら
彼の修士論文の発表会に使ったpptファイル25MBは、(こちら
2009年春気象学会発表原稿pdfファイル(こちら


アムールオホーツク論文シリーズ(1)アムール川の淡水流入が多い年ほどオホーツク海の海氷は少ない ―「大量の淡水流入が一因でオホーツク海が凍りやすい海である」というこれまでの常識と逆の事実を発見-

Ogi, M., Y. Tachibana, M. A. Danchenkov, and F. Nishio, Does the fresh water supply from the Amur River flowing into the Sea of Okhotsk affect sea ice formation? , Journal of Meteorological Society of Japan, 79, 123-129, doi.org/10.2151/jmsj.79.123, 2001

この論文はアムール川の流出量とオホーツク海の海氷との相関が,これまで云われてきたことと逆の 関係があることを示した論文です.これまで一般に知られていたことは,以下です.「塩水よりも軽い淡水が海に流入することで,オホーツク海の表面は塩分が少ない軽い水が存在します.一方,塩分の濃い重い水は深いところに存在する二層構造をしています.そのため,冬の寒気に冷やされても鉛直方向の深い対流が起こりにくくなることで,表面付近が結氷温度に達しやすくなることで,オホーツク海は凍りやすいのです.」

しかし,結果は逆で,少なくともアムール川の流量の年々変動と,オホーツク海の海氷の年々変動については,上記の説とは反対であった.という研究です.手前味噌ながら画期的な論文だと思います.これは当時ボクが指導していた小木さんの修士論文の元となった論文です.

アムール川の流量データがどのように計測されているのかを現場ロシア極東の流量観測所へ実際に行ってきたことに基づいてます.アムール川の流量を観測データを元に数値で示した英語の論文として初めての物だと思います.その値は論文中にも記載されてますが 333km3/year です.この値をオホーツク海の面積で割ると,年間にオホーツク海に「積もる」アムール川の淡水量を見積もることが出来ます.淡水と塩水が全く混合しないと仮定すると,2.6メートルから5メートル程度,淡水がオホーツク海に積もる,とこの論文では見積もりました.

この論文では,関係が逆になる理由を「アムール川は夏に流量が多く,その水温はおそらく20度を超えるほどに高温であり,冷たいオホーツク海に暖かい水が流入しそれが表面を覆うことで,暖水がオホーツク海に広がることで,凍りにくくなるのではないか?」という考察を論文中に記載し,オホーツク海に流入する暖かい河川の効果を簡便な熱収支を示して,その可能性を論じています.最近は,北極海の海氷が減少している理由に一つに,ロシアからの暖かい河川水からの流入の可能性が論じられ始めています.そういう意味でも当時としては時代を先取りした先駆的な研究だったと懐古しています.
(記載日:2019年11月2日)
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アムールオホーツク論文シリーズ(2)アムール川流量とオホーツク海氷が逆相関関係にあるのは,北極振動が効いている

Ogi, M. and Y. Tachibana, Influence of the annual Arctic Oscillation on the negative correlation between Okhotsk sea ice and Amur River discharge, Geophysical Research Letters, 33, L08709, doi:10.1029/2006GL025838, 2006

シリーズ(1)の逆の相関関係を見つけた論文を出した後,暖かい河川水効果以外にも,逆相関関係を創り出す何かがあるのではないか?というふうに思いました.海氷は,アムールだけではなく寒気が強ければ増えますので,大気の長期変動がアムール川の流量とオホーツク海の海氷の両方に影響していることがもう一つの原因ではないか?というい仮説を立てました.

流量を決めるのは,主として夏の降水ですので夏の大気場が重要です.寒波は冬の大規模な大気場が重要です.夏と冬の両方に影響する大気場となると,スケールが大きな大気場である可能性が高いです.

そこで目をつけたのが北極振動です.丁度,小木さんと山崎孝治さんとワタシとで,「北極振動には冬から夏にかけて持続性がある」ことを論文発表した直後でしたので,決め手は北極振動だろう.と目をつけました.そして解析したところ,ばっちりそれが当たりました.それを annual北極振動(annual AO)と名付けました.annual AOが正の年は年間を通じて極東地域は暖かく,雨が多く,海氷も少ない.逆にannual AOが負の年は,極東は寒くなり,降水が少なく,海氷も沢山できる.ということから,アムールの流量が多い冬は,海氷が少ないということになる.ということを論文にしました. annual AOは,小木さん達が書いた,「北極海の秋の海氷とオホーツク海の冬の海氷には10年規模で同期して変動している」という論文の原因としても取り上げられています.annual AO が原因となる現象は他にもありそうな予感がします.
(記載日:2019年11月2日)
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アムールオホーツク論文シリーズ(3)アムール川の流量の気候値と年々変動とそれをとりまく大気水蒸気場

Tachibana, Y., K. Oshima, and M. Ogi, Seasonal and interannualvariations of Amur River discharge and their relationships to large-scale atmospheric patterns and moisture fluxes, Journal of Geophysical Research, 113, D16102, doi:10.1029/2007JD009555, 2008

シリーズ(1)(2)を受けて,この際だから,アムール川の流量の気候値や年々変動とそれに関連する極東地域の水蒸気の流れを解析して,アムールとオホーツクシリーズ研究をひとまず完結させようと思うに至りました.実はシリーズ(2)の研究を始めた頃に,科研費(海外学術調査)にワタシが研究代表者として採択され,アムール川の流量データがより最近まで入手できました.さらに科研が終了した後,総合地球環境学研究所のアムールオホーツクプロジェクト(白岩先生代表)が立ち上がったので,より長い期間のデータを入手することができました.それらを用いて,その頃出始めた高解像度の大気再解析データのどれが最もこの流域の水循環を再現しているか?などを調べました.結果はヨーロッパのECMDWFが作成していいるデータセットが一番観測値の流量に近いことがわかりました.日本のデータセット(JRA-25 )は残念ながら過小評価していました.

論文中にはECMWF大気再解析データから見積もった流量(降水量に換算)記載しました.それは182mmで,この値に流域面積1.86×106km2をかけてやると流量になります.それが,339km3/year です.シリーズ(1)で示した観測値,333km3/yearに非常に近い値となったのは驚きです.もう,流量を観測しなくてもいいのでは?などと思わせてしまいます.もちろんそれは冗談ですが..

一連の研究で,何度も何度もアムール川流域へ調査のためにロシア極東へ行きました.流量観測を行っている最下流部のバガロツカ観測所や河口域のニコライスク観測所では,「ここに来た日本人はおまえが初めてだ」といわれたりしました.これらを助けてくれたののは,ロシア人の友人,M. A. Danchenkovさんです.彼のおかげです.シリーズ(1)の共著者でもあります.彼とは,ある研究航海で一緒の観測船に乗りました.それがこの一連の研究の切っ掛けです.

なお,この論文をひとまずのアムールオホーツク研究の区切りと位置づけ,その後はしばらくアムールオホーツクの研究からは遠ざかってましたが,数年前に再開しました(三寺先生のカムチャツカ科研や,植田先生のチベットオホーツク科研の研究分担者となったため)只今鋭意研究中です.いずれアムールオホーツクシリーズ(4)..(5)..として論文の紹介をここに掲載したいとおもっています.オホーツクは世界でも希なるおもしろい海ですので..
(記載日:2019年11月2日)
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